最高裁判所第一小法廷 昭和35年(あ)658号 判決 1960年8月04日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人信部高雄の上告趣意第一点について。
憲法三八条一項は、何人も自己が刑事上の責任を問われる虞ある事項について供述を強要されないことを保障したものと解すべきことは当裁判所の判例とするところである(昭和二七年(あ)第八三八号、同三二年二月二〇日大法廷判決、刑集一一巻二号八〇二頁参照)。
ところで、法人税法は、法人税の徴収につき、いわゆる申告納税制度を採用したものであり、納税義務者たる法人の申告に基づき一応法人税の納税義務内容を確定し、納税義務者自身自主的にその納税義務を実現履行せしめ、以って法人税の課徴を確実に実行しようとするものであって、所論の同法一八条一項は、右目的のため、法人をしてその確定した決算報告に基づき課税標準たる所得金額および積立金ならびにこれらに対する法人税額を申告せしめることを規定しており、何ら自己が刑事上の責任に問われる虞のある事項について供述を強要しているわけのものではない。ことに、同法四八条一項は、詐偽その他不正の行為によって右一八条一項等の規定により申告をなすべき法人税を免れた場合等に、これを処罰することとして不正に法人税を免れた場合の罰則であって、同法一八条一項の申告義務違反を罰する規定ではない。そして、このような法人税法の申告義務の規定が憲法三八条一項に反するものでないことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである(前記判例および昭和二七年(あ)第四二二三号、同三一年七月一八日大法廷判決、刑集一〇巻七号一一七三頁参照)。
それ故所論違憲の主張は採るを得ない。
同第二点ないし第四点について。
所論は事実誤認、単なる訴訟法違反、量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
記録をしらべても、所論の点につき、刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)